三振前のバカ当たり

自営業30代男性が、本の話題を中心に、学んだことや考えたことを書き残していきます。

「経営戦略とは、ありたい姿に近づくための実行プラン」 新刊新書書評「実はおもしろい経営戦略の話」(SB新書) 野田稔著

 新書版

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内容(「BOOK」データベースより)

「経営戦略」なんて経営者だけに必要な話、自分には関係のない小難しい理屈ばかりだ―たしかに、そういう面はあるものの、どんなビジネスパーソンであれ、いや学生だって、主婦だって、経営戦略の理論は、かなり役立つ。そこで「経営戦略」のプロフェッショナルが、ライバルを圧倒する経営戦略の本質をざっくりと教えてくれる。小難しい話をわかりやすく、わかりやすい話を深掘りして、深掘りした話を面白く学べる―実はおもしろい経営戦略の話。

 

 

 

 

 

● 企業の経営とは無縁なのだけど

「経営」という言葉からはほど遠い場所で働いている私なのである。

だけど、タイトルの「実はおもしろい」という箇所に、自分のような人間でも経営というものを知ることは楽しくて意義があるんだ、というメッセージを感じて購入。

本書によると、「経営戦略」とは「ありたい姿をロジカルに考えて、具現化して、近づいていくための実行プランを立てる」ことだと言う。

だから企業だけじゃなく、個人の生活にも役立つのだ、と。

なるほど、これなら私も読む価値がありそうだ。

 

 

● 金のなる木を問題児へつぎ込め!

本書は、まず経営戦略の概略について簡単に触れてから、過去の国家や企業を実例に挙げて組織が成長していくための戦略について詳しく語っていく。

もしかしたら体系的ではないのかもしれないけれど、「おもしろさ」から常にそれることなく説明してくれるので飽きずに読み進めていくことができる。

その中で一番心に残ったのが、企業の成長戦略についての話。

 

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これ、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)という表。

様々な事業に携わっている企業が、どの事業に力を入れてどの事業から手を引くべきかを考える際に使うマトリクスなのだそうだ。

市場成長率(その業界自体がどれだけ儲かってるか)と相対的市場占有率(企業がその業界の中で、他の企業と比べてどれだけの力があるか)の二つを基準にして、事業の状態を4つに分類している。

わかりやすいのは、

 

  • 花形  → 業界が好調で、しかも自社はその中でNO1。超儲かる。ガンガンいこうぜ
  • 負け犬 → 業界が元気がなく、自社のシェアも低い。さっさと撤退すべき。

 

もし自社の事業がこの二つに分類されたら、どうすべきかは子どもにだってわかる。

残りの二つはどうなるのか。

 

  • 金のなる木 → 業界はさほどでもないが、自社はこの分野に強い。
  • 問題児   → 業界は勢いがあるのに、自社は今ひとつ。

 

「金のなる木」は要するに、以前は「花形」だったけれど市場が落ち着いて成長が鈍ってきたということ。だけど今更新規参入する企業が少ないから、さほど競争せずとも安定した利益が得られるから「金のなる木」と呼ばれている。

一方の「問題児」は、せっかく市場が元気なのに、自社のシェアが低いから、儲けるチャンスを逃している。

もし金をかけて事業を大きくすると、花形へと発展して大きく儲けることができる。

だから、「金のなる木」から吸い上げた利益を「問題児」に投入するのが正しい選択となる。

ところが、なのだ。

 

 

 

● ソニーがアップルになれる未来もあった

かつては「花形」、今は市場が落ち着いて「金のなる木」となった事業は、要するにその企業にとって主力事業である。

そして経営陣の大半は、この主力事業の出身者ばかり。

そうするとどういうことが起こるかというと、みんな「金のなる木」に分類される事業にばかり金をかけ続け、発展する保証のない「問題児」に投資する決断を誰もできなくなる。

これを「主力事業のワナ」と本書では表現している。

そして実例として挙げているのが、ソニーウォークマン事業。

2000年頃、ソニーのCD・MDウォークマンが絶好調の中、社会ではいずれネット経由の音楽配信が主流になると一部の社員が考えて、i pod より先に「ネットウォークマン」を発表し、i tunesより先にダウンロードサイトを用意していた(全然知らなかった!)。

だけど、時代の変化を意識していたのはあくまでその一部の人たち。

決して会社全体で共有されていたわけではなく、本来「金のなる木」であるウォークマン事業から「問題児」であるネット配信事業へとシフトしていくべきだったのに、それができなかった。

これ、とんでもない失敗ですよね。

もしソニー音楽配信を成功させていたら、アップルに変わってソニーが世界を席巻していたかもしれないのに。

他にも、フィルムにこだわってデジカメ時代に対応できなかった企業や、電通博報堂がネット時代に備えてネット広告専業の子会社を立ち上げたのに、結局それまでのTVを上位に見る考えから抜け出せず、DeNA等の新興企業に勝てなかった例が紹介されている。

 

 

 

● 本書を読んで考えたこと

「今日と同じことが明日通用するとは限らない」

この一言に尽きますね。

昨日読んだ「未来の年表」で、人口が減る将来、今までの「当たり前」が「当たり前」でなくなっていくことを痛感させられたばかりだっただけど、再び同じことを考えさせられた。

だけどこの原則を常に守って物事を決断する、というのはきっと難しいんだろうね。

大企業の経営陣たちだってみんな優秀なんだから(だよね?)当然これくらいのことはわかっているはず。

だけど自分たちが作り上げた成功体験、自分たちが拠り所としてきた価値観や常識、これを否定するというのは簡単なことじゃないんだろう。

だからこそ、こうやって失敗例をたくさん知ることは大切なのだ。

古い常識にとらわれた人たちを反面教師にして、ちゃんと自分の頭で未来を予測するために。

同じ轍を踏まずに、時代の変化に対応しながら自分の人生の舵を取るために。

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