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人口減少がチャンスって意味わかんないんだけどどういうこと?「武器としての人口減社会~国際比較統計でわかる日本の強さ~」村上 由美子著

 「未来の年表」を軸として、書評を書いたり、同時期に読んだ「限界国家」と比較をしたりしてきたが、今日もその続き。

 

 

 

sinsyo.hatenadiary.jp

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● 気になる記述

「未来の年表」の「はじめに」で、こんな文章があった。

最近は悲観論を逆手にとったような論調も多くなってきた。人口減少を何とかポジティブに捉えることが、現実を知らない聞き手には受けるのかもしれない。「人口減少は日本にとってチャンスだ」「人口が減ることは、むしろ経済成長にとって強みである」といった見方がそれである。 

 なんだそりゃ? と思った。

「人口が減っても大丈夫」ならまだわかるけど、減ることがチャンス・強みと考えるなんて意味がわからない。

そんなことを言っている奴が本当にいるの?

と思った。

そしたらちゃんといました。

本屋をうろついていたら偶然見つけたのがこの本。

 

 新書版

 

 kindle

 

内容(「BOOK」データベースより)

少子高齢化はチャンス!20年以上、外資系証券会社や国際機関で働き、人生の半分は外国暮らし。世界を見てきた経験と、データの裏付けからわかる日本経済の底力。

 

 

●なぜ、人口減少が武器になるのか

第一章「人口減少が武器になるとき」で、人口減少を前向きに捉えられる理由が書かれていた。

実は、何が書かれているのか、ちょっと想像がついていた。

人工知能(AI)のことじゃないかな」と。

当たりだった。

人工知能、そして情報通信技術(ICT)が進化して、将来今ある仕事の大部分を機械が行ってくれる。

普通であれば、「機械によって人間の仕事が奪われる!」と恐れおののくところだ。

雇用を守るために、新しいテクノロジーの力をわざと使わない国も出てくるかもしれない。

だけど日本は大丈夫、人口が減って働き手が少なくなるのだから、むしろ人工知能に働いてもらおうと積極的に受け入れ、社会がどんどん進化していく。

ここまでは予想通りだった。

もう一つ、私の考えになかった理由があった。

それは、労働生産性の向上。

よく日本の会社は生産性が低い、と指摘されている。

実際、本書によると、労働生産性の国際比較を行った結果、日本は常に20位以下にとどまっているらしい。

どうしてなのかずっとわからなかったけれど、この本にそのヒントが書かれていた。

今までは人口が右肩上がりで増え続けていたので、生産性などというものをあまり考えなくても、質より量、みんなが一生懸命働くことで経済を上向かせ続けることができた。

だけど、人口の増加(いわゆる人口ボーナス)は終わり、これからはどんどん働き手が減っていく。

つまり現在の日本は、初めて生産性の向上という問題をまともに考える機会を得たということ。

そしてその手段として人工知能・情報通信技術を利用することができる。

それが新たなイノベーションを生み、私たちを豊かにしてくれる。

なるほど、今まで生産性というものをあまり考えていなかった分、かなりの伸びしろがありそうだ。

しかもちょうど同じタイミングで発達してきた人工知能・情報通信技術を利用すれば、日本の経済は大きく好転してくれるかもしれない。

 

 

 

●雇用が流動化しても私たちなら大丈夫

イノベーション」という言葉で、先日書評を書いた「限界国家」のある文章を思い出した。

 


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それは、生産性を上げれば移民を受け入れなくてもいいのではないか、という批判に対する回答。

平均年齢が上がり続ける日本で、国民全体を潤す高付加価値のイノベーションが果たして次々に起こるだろうか?

(中略)高齢化は労働者の創造性や革新性・積極性などを弱めると推測する。それが常識的な見方だろう。 

 私も著者と一緒になって「それが常識的な見方だろう」と思った。

だが本書は言う。

そんなことはないよ、と。

今の日本には、高い能力を眠らせたままの人材がたくさんいる、というのだ。

かなりの分量をとって紹介している人材が二つある。

一つはだいたい予想通り。

女性だ。

そしてもう一つが意外だった。

それは、中高年。

読解力と数的思考力を年齢別に他国と比較したデータが載っている。

これによると、55~65歳の中高年は調査対象国の中で最も高い能力を持っていることがわかった。

さらに、普通年をとるにつれてこの二つの能力は落ちていくのだが、数的思考力の年齢間の差が小さく、長い期間高い能力を保ち続けられることがわかった。

だから、人工知能・情報通信技術の発展により、仕事の中身が大きく変わっても、日本の中高年は変化に対応する力がまだ残っている。

技術の進歩によって今就いている仕事がなくなったとしても、新たな仕事に就く能力は十分にあるのだ。

そう、本書は「雇用の流動性」を推し進めていくことが重要だという考え方が前提となっている。

そうしないと、社会で必要とされる仕事が変わっても、新たにその仕事に就く人がいなくなってしまう。

「雇用の流動性」という言葉を聞くと、私は反射的にびくびくしてしまう。

要するに、今よりも簡単に首を切れる社会、ということだから、自分のスキルに自信がない私なんかは「雇用を守れ!」と叫びながら拳を突き上げたくなる。

だから本書を読み終えた今も、著者の主張に100%賛同するのは心情的に難しい。

やっぱり我が身がかわいいからね。

だけど、社会の進歩のためにはその方が合理的なのは間違いないし、本書によれば流動化に耐えうる力を私たちは持っているということなので、恐れすぎてはいけないのかもしれないな、と考えるようになった。

人口減が前提なのだから、仕事の募集がない、という事態はなさそうだし。

少なくとも、「限界国家」にあった「高齢化する国でイノベーションは簡単には起こらない」と言う主張に対しては、「そうとは限らないかもよ?」と言い返してみたい。

 

 

 

●じゃあ人口減少は心配しなくていいの?

人口減少で衰退するばかりではない。

日本にはまだ可能性が秘めている。

それはわかった。

じゃあ人口減少は「ピンチじゃない、チャンスだ!」と言い切っていいのか?

「未来の年表」や「限界国家」は騒ぎすぎなのか?

もちろん、そんなわけない。

本書の提言だけでは解決できない問題が、まだ一つ残っている。

三冊を読みながら私なりに整理した結果、人口減少に伴って生じる問題は大きく分けて3つある。

一つめは人手不足。

移民を受け入れてもいいけれど、もしかしたら人工知能や女性・中高年の活用で乗り切れるかもしれない。

二つ目は社会全体の活力の低下。

人口が減っても、私たちがより社会で輝き、新たな時代を創り出すことで、案外楽しく生きられる可能性もなくはない。

ただ地方の過疎化にどう対応できるかはわからない。

このあたりは微妙なところ。

そして三つ目が、社会保障の問題。

これは、きつい。

どれだけ生産性を上げてイノベーションを起こしても、人口構造が変わらない限り、1人の老人の年金を2人以下の人間で支えていくという構図を変えることはできない。

若者が少なく老人が増える状態が続く限り、医療費はかさみ、介護用ベッドや輸血用血液は不足する。

人口減は武器になるかもしれないけれど、決してあらゆるものを斬り倒す最強の武器ではない。

(補足しておくと、本書はあくまでビジネスの観点から人口減を「武器」として捉えているので、社会保障については最初から対象に入っていない。だから私は別に本書を批判したいわけではないです)

 

 

 

●そろそろまとめを

人口減少に関する新書を三冊読んできた。

それぞれ違う視点から人口減少という問題に言及していて、三冊を読み、三冊を比較しながらあれこれ考えを巡らせた。

まだわからないことはたくさんある。

実際のところ、人工知能は私たちの暮らしをどこまで変えるのか。

既に人手不足が叫ばれているのに、どうして実質賃金は下がり続け、格差が拡大して貧困に苦しむ人がたくさんいるのか。

だけどそれはとりあえず置いておく。

私は別に専門家になりたいわけではないし、他にも読みたい分野の本はたくさんある。

いったん、決着をつける。

次回の記事で、人口減少という問題における現時点での私の考えをまとめてみたい。

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限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択 (朝日新書)

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