三振前のバカ当たり

自営業30代男性が、本の話題を中心に、学んだことや考えたことを書き残していきます。

さらば愛しき競馬

 

 

トップステーブルはどういう基準で騎手を選んでいるのか、オーナーとのコミュニケーションは? レース選択のポイント、厩舎コメントに込められた思い、スタッフのマネジメント術から日本競馬界が抱える課題までファン垂涎「目からウロコ」の言葉の数々。週刊ポスト誌上での連載を元に大幅に加筆再構成。

 

 

 

 数々の名馬を世に送り出しながらも、定年を前に引退した角居調教師が、40年の競馬人生の中で得た知見を解説した本です。

 調教師が本を出すことはこのところ増えてきている印象がありますが、本書は引退した(刊行されたのは引退する直前)調教師が書いた本なので、現役の人には書けないような突っ込んだ内容も多く、目を見張るような指摘がいくつもありました。

 角居厩舎は積極的に海外遠征を行いましたが、その際のJRAのサポートは「あまりにも頼りにならない」そうです。

 

「ヨーロッパやアメリカ、オーストラリアにはJRAの出張所はあるのです。しかし、職員は2,3年くらいで代わっていくので、地元の調教師などのパイプをつくることもできない。競馬のことがあまりわかっていない人も多くて、まるで役に立っていない。

(中略)それでいて遠征してきた馬の状態などの情報はほしがるのです。サポートはしないけれど監視はするぞ、といったところなのでしょうか」(P157)

 

いかにも役人がやりそうなことだな、とがっくりきてしまいました。

今年、(2022年)、ドバイやサウジの国際レースで快進撃を見せ、競馬ファンもそうでない人も(多分)盛り上がっているだけに、何とも残念な現状です。昔、香港のG1を勝ちまくったエイシンプレストンが引退するとき、JRAは国内のG1はあまり勝っていないからという理由で引退式のサポートを何もしてくれなかった、という寂しいエピソードを思い出しました。

どのスポーツも国際戦での活躍は世間の注目を集めるんだから、もっとJRAも本腰を入れて海外遠征の後押しをしてほしいです。今は海外レースの馬券を売っているんだから、なおさらそう思います。

 

 馬の性質についても多く語っていて、馬券の検討に役立ちそうなことも多いのですが、個人的にこの本で一番印象に残ったのが、「見えない疲労」についての見解でした。

 たまに人気馬が不可解な敗戦をしたとき、調教師が「見えない疲労があったのかもしれない」とコメントすることがあります。馬券を買っていたこちらとしては「そんなのどうやって見破ればいいんだ」と憤慨することがあるのですが、実際調教師もそうコメントするしかないくらい、凡走の原因がわからずに困るそうです。

 ですが、角居調教師はその「見えない疲労」の原因について気づいたことがあるそうです。

 レースを走って馬が受けるダメージは「骨格的ダメージ」と「筋肉的ダメージ」があるそうです。

 

骨格的ダメージは関節に痛みが出るのですぐに分かる。ところが筋肉的ダメージは分かりにくい。深刻な筋肉疲労があり、それがまさに季節が変わるくらい後になって出てくることもある。

(中略)走りがぶれずに目一杯に脚を使って力強くゴール板を駆け抜けたような場合は要注意。骨格的ダメージがまったく見受けられないからと胸をなでおろしていると、筋肉的ダメージが隠れている場合がある。(P182)

 

 これ、競馬の見方が大きく変わりそうです。

 あんなに強かった馬がどうして……ということは往々にしてあるのですが、そのときはこのタイミングで筋肉の疲労が出たから、と考えることができそう。だとすると、しばらく間隔をあけてレースに使えば、凡走+休養明けで人気は落ちてるけど、筋肉の疲労が取れて本来の調子を取り戻しているから一発あるかもしれない、なんていう見立てができるかもしれない。

 馬に携わる人だから分かる、馬に関する情報がたくさん載っているので、馬券予想の引き出しがぐっと広がっていきそうな一冊です。それですぐ結果が出るかはわからないけど、楽しく予想ができるのは間違いない。

 

 角居調教師は残念ながらすでに引退してしまいました。ですが、数々の後継者を育てているようなので、今後は彼らが、角居厩舎のように海外G1を制することを期待したいです。